脳卒中について
- 1) 脳卒中とはどういう病気か
- 2) 脳梗塞とは
- 3) 脳出血とは
- 4) クモ膜下出血とは
- 5) 脳梗塞で起こる症状
- 6) 脳出血で起こる症状
- 7) クモ膜下出血で起こる症状
- 8) 症状が人によって違う理由
- 9) 脳梗塞の前兆と対処方法
- 10) よくある質問
1) 脳卒中とはどういう病気か
脳卒中とは脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の3つの病気の総称です。脳卒中は脳の血管が傷害される病気ですが、脳の血管が閉塞し血液が届かなくなった脳細胞が細胞死する病気を脳梗塞といいます。脳出血、クモ膜下出血は脳の血管が破綻し、血液が血管外に漏出する病気ですが、脳実質内に漏出した場合脳出血、クモ膜下腔に漏出した場合をクモ膜下出血といいます。
脳の血管は年齢とともに傷んでくるため、脳卒中は一般的に高齢者に多い病気ですが、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙、多量の飲酒などは血管に悪影響を及ぼすため、これらの基礎疾患や生活習慣をもつ人は、高齢でなくても脳卒中になる可能性が高いことが考えられます。
また、クモ膜下出血の原因となる脳動脈瘤破裂は、40歳から60歳の女性に多いことが知られています。
2) 脳梗塞とは
脳の血管が細くなったり、詰まったりして、血流が途絶え、十分な酸素やエネルギーが脳組織に運搬されず、脳組織が壊死してしまう病気です。
脳組織が壊死してしまうと治療することができません。つまり、脳の血管が詰まってから脳組織が壊死してしまうまでの数時間の間に治療する必要があります。よって、脳梗塞発症後はできるだけ早く病院に来る必要があります。
3) 脳出血とは
主に高血圧が原因で、脳の動脈の一部が破れて脳の中に出血を起こした状態です。
出血した部位に応じて、手足の麻痺や感覚障害、視野障害、失語など様々な症状が起こります。出血の量が多い場合には主に救命の目的(機能を回復する目的ではありません)で出血を取り除く手術を要することもあります。脳室と呼ばれる部分に出血して水頭症となった場合には、緊急で脳にたまった血液や水を取り除く治療(脳室ドレナージ術)を行います。
重度の後遺症が残った場合には長期のリハビリテーションが必要となります。他の脳卒中同様に脳出血を起こさないための予防が重要です。
4) クモ膜下出血とは
脳の表面にある比較的太い動脈にできた瘤(こぶ)の破裂によって、出血が脳の表面の「くも膜の下の空間=くも膜下腔」に流れ込むことで起こるのが「くも膜下出血」です。症状として特徴的なのは、突然バットで殴られたような頭痛、今までに経験したことがないような強烈な頭痛です。重症の場合は急激に脳が圧迫され、意識を失います。発症すると死亡確率は非常に高く、30%程度といわれています。
5) 脳梗塞で起こる症状
脳梗塞は脳の血管が詰まることにより、様々な症状が出現します。典型的な症状として
- 片側の手や足が動きにくくなる(片麻痺)
- 顔の表情がゆがむ(顔面麻痺)
- うまく喋れない(構音障害)
- 言葉が出ない(失語)
などがあります。その他にも目が見えにくい(視野障害)、片方の手や足がしびれる(感覚障害)、ふらつく、歩けないなど、多くの症状があります。
また重症な脳梗塞であれば、急に倒れた、意識がない、といった状態になります。
このように脳梗塞は様々な症状が起こり得ますが、その多くは「突然」に発症することです。
脳梗塞の発症のサインをより早く気付くために「FAST」という確認方法があります。「FAST」とは、脳梗塞でおこる典型的な3つの症状の頭文字と、「T=Time」を組み合わせた言葉です。「FAST」という言葉からもわかるように、脳梗塞治療は時間(Time)との闘いなのです。症状に気づいたら、すぐに受診しましょう。
6) 脳出血で起こる症状
脳出血の起こった場所、出血量によって症状は様々です。典型的な脳出血の症状は、突然起こった片側の手足の麻痺、感覚障害、言語障害等です。これらの症状に伴い頭痛、嘔気、嘔吐が生じることもあります。出血量が多いと意識障害もきたします。
7) クモ膜下出血で起こる症状
くも膜下出血で特徴的な症状は「突然の強い頭痛」や「意識障害」です.頭痛に関して,典型的には「ハンマーで殴られた様な頭痛」と言われております.ただ,必ずしも激烈な頭痛や意識障害を来さないこともあります。そこまで強い頭痛で無くとも,「突然生じた頭痛」は注意が必要です.頭痛が起こった瞬間に何をしていたかを思い出せる様な頭痛の場合、必ずしもくも膜下出血とは限りませんが、病院受診を検討して下さい。
8) 症状が人によって違う理由
脳には場所によってその役割が異なります。例えば手を動かす、足を動かす、言葉を話す、理解する、しゃべる、物を飲み込むなど、様々な機能が脳の各所に割り当てられています。そのため、障害される場所によって出現する症状が異なります。
9) 脳梗塞の前兆と対処方法
脳梗塞の前兆は一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれます。血管が細くなって起こるものや、一時的に血管がつまって、すぐに流れ始めることなどが原因となります。
片腕の力が抜ける、目の半分がすーっと見えなくなる、舌がもつれる、ろれつがまわらなくなる、片側に倒れそうになる、顔がゆがんで口元がしびれるなどの症状が代表的な前兆です。そのままにしておくと脳梗塞になることがありますので、なるべく早く病院を受診することが重要です。
10) よくある質問
脳卒中を起こすリスクが高い人はどのような人ですか?
脳卒中の危険因子として知られるのは、高血圧、糖尿病、脂質異常症やメタボリックシンドロームなどの疾患です。これらが未治療あるいは、治療していても数値が下がっていない(コントロールがよくない)場合は、脳卒中のリスクが高いといえます。喫煙や、過度の飲酒も脳卒中のリスクを高めます。近年では慢性腎臓病を患っている場合も血管の病気を起こしやすいことがわかっています。
また、心臓の不整脈のひとつである心房細動は、たとえ無症状であっても、脳梗塞を起こすことがあります。
いずれの疾患も、検診での発見や、診断後の適切な治療が重要です。
高血圧だとなぜ脳卒中リスクが高いのはなぜですか?
疫学的に高血圧は脳卒中の最大の危険因子とされています。高血圧が長期間続くと動脈硬化が進行し、やがて脳の血管が詰まり脳梗塞になります。また高血圧で脳血管が破れると脳出血となり、脳血管の一部に動脈瘤ができて破裂するとくも膜下出血となります。
年齢を重ねることに様々な脳卒中リスクが増えますが、年齢が低い程高血圧が脳卒中の原因を占める割合が増え、逆に言うと高血圧治療によって脳卒中発症の抑制効果は高くなります。
脳卒中の発症リスクは血圧120/80mmHg未満の人と比較して、血圧140-159/90-99mmHgの人で3.3倍、血圧180/110mmHg以上の人では8.5倍に上がることが研究で報告されています。また標準降圧(平均140/81mmHg)群と比較して厳格降圧群(平均133/76mmHg)では脳卒中発症が22%低かったことも報告されています。
コレステロールが高いとなぜ脳卒中リスクが高いのでしょうか?
脂質は血液中に高濃度で長期間存在すると、増えた脂質が血管壁内に侵入し蓄積、時に血管壁内で炎症を起こし正常な血管構造を破壊します。これが動脈硬化や血管が細くなる原因といわれています。よって高コレステロールは脳梗塞の危険因子といわれています。一方で、脂質は正常な血管形成にも必要と考えられ、過度のコレステロールの低下は脳出血が起きやすくするという報告もあるため、バランスの良い食生活が大切です。
糖尿病ではなぜ脳卒中のリスクが高くなるのでしょうか?
糖尿病が脳卒中のリスクを高めるのは、糖尿病が動脈硬化を促進するからです。血管の壁にコレステロールが沈着することが動脈硬化の原因ですが、血糖値が高いと、コレステロールが血管壁に沈着しやすくなります。血糖値のコントロールは、動脈硬化の予防、さらには脳卒中の予防のため、非常に重要です。
喫煙と脳卒中の関係を教えてください。
喫煙者は非喫煙者と比べて、1日20本以下の喫煙で、男性女性とも約1.5倍脳卒中を起こしやすくなるとされています。1日21本以上の喫煙になると、男性で約2倍、女性で約4倍となります。
また、禁煙をして約10年程度で非喫煙者と同程度まで脳卒中リスクが下がるというデータがあります。
脳卒中予防のため、喫煙者には禁煙を強くお勧めします。
脳卒中と飲酒の関係を教えてください。
1日平均3合以上の飲酒習慣がある人は、飲酒習慣のない人に比べて、1.5倍程度脳卒中になりやすいと報告されています。これは主に出血性脳卒中(特に脳内出血)の発症が増えるためです。脳梗塞に関しては、1日1合未満の飲酒習慣では、「時々飲む人」に比べて、脳梗塞は約4割少ないとの報告もあります。
以上から、脳卒中にならないためには、飲酒量は1日平均1合未満とすることが、勧められます。
脳卒中になったら将来必ず認知症になるのでしょうか?
脳梗塞を起こした人が、必ずしも認知症を発症するということではありません。脳梗塞後も後遺症なく生活している人も多くいらっしゃいます。
しかし脳梗塞後の患者さんは、「脳血管性認知症」を起こすことがあります。この脳血管性認知症は、脳の血管が原因となり脳細胞が障害されることにより発症します。
脳血管性認知症は発症すれば有効な治療法はないため、予防がとても重要です。高血圧・糖尿病・脂質異常・喫煙・肥満といった生活習慣が脳血管性認知症を起こす原因となり得るため、日々の生活習慣に十分気を付けてください。
親が脳卒中になったのですが、遺伝しますか?
一般的に脳卒中の危険因子の多くは生活習慣病との関連が強いといわれています。しかし、もやもや病、CADASIL、ミトコンドリア異常症等の遺伝的背景が関与して脳卒中を発症する疾患も存在します。
がんと脳梗塞の関係について教えてください。
がんなどの悪性腫瘍では、血管内で血液が異常に固まりやすくなってしまう病態を来すことがあります。その結果、固まった血液(血栓)が血流に乗って脳血管をつめてしまい脳梗塞を発症してしまうことがあります。
脳卒中を起こしやすい時期はありますか?
一般的には、脳出血やクモ膜下出血は冬に多いといわれています。特に秋から冬の急に寒くなったときは血圧が上昇しやすく、注意が必要です。
一方、脳梗塞は脱水を起こしやすい夏場に起こりやすいといわれています。
- 執筆者徳島大学病院 脳神経外科
准教授 兼松 康久
講師 島田 健司
助教 高麗 雅章
助教 曽我部 周
特任助教 山口 泉
徳島大学病院 脳神経内科
特任講師 山本 伸明
医師 黒田 一駿 - 作成日2022年10月30日