生活の注意点

1) 転ばないための環境づくり

転倒・転落は、骨折や頭のケガなど重大なけがを招き、このことが原因で介護が必要な状態になることもあります。高齢者の介護が必要となった原因の中で「骨折・転倒」は4番目に多いとされています。たった1度の転倒で寝たきりになることがあるため、転ばないための環境作りが大事です。

脳卒中後で麻痺などの後遺症がある、長い入院生活で筋力や体力が落ちたといった場合、住み慣れた環境であっても思わぬところで転んでしまうことがあります。
転んでしまう原因のほとんどは、バランスを崩す、ふらつく、つまずくといった身体要因があげられます。
転倒を起こしやすい場所としては、室内では居間、トイレ、ベッド周囲が多く、立ち上がりや方向転換をする時に転んでしまうケースが多いようです。
転んでしまうと何かしらのケガを負ってしまうことも多いので、慣れた環境であっても注意が必要です。

転倒を予防するためのポイント

① 部屋の整理

手すりを取り付ける、段差を解消するということも対策としては効果的ですが、やはりまずは、不用意に床に物を置かないようにしましょう。ティッシュやリモコンカバンなど、床に置いてしまうことで躓いて転んでしまうことがあります。また、足元に置いてあるものを取ろうとした弾みで、バランスを崩して転ぶこともあるので、よく使用する物の位置を決めておくとよいでしょう。

<できる対策>

  • コード類は壁に沿わせる①
  • めくれやすいマット類は固定する②
  • 床に物を置かない③
  • 数センチの小さい段差はつまずきやすいため、スロープを付けたりテープ等で視認性を上げる。④
  • 床が濡れていたら拭く
  • 手すりを付ける

② 履物に注意する

室内・屋外問わず履きなれた靴やスリッパを使用しているかと思いますが、特にスリッパは、裏面がツルツルとした素材や踵がついていないタイプであると、脱げやすく滑りやすいため危険です。転倒を予防するためのスリッパとして、踵のあるマジックテープタイプのものなど複数販売されているので、そういったスリッパを活用しましょう。

③ ケガが最小限になるよう工夫する

転倒を完全に予防することは難しいので、転んだ時にケガを最小限にするようなアイテムを活用しましょう。例えば転びやすい場所に緩衝マットを設置する、机の角にコーナーゴムを設置する、家具に滑り止めを使用するなどの対策を講じることが有効です。

転倒してしまったら、まず擦り傷、打ち身などケガが無いかを確認しましょう。一人で立ち上がれない場合や強い痛みがある場合は、捻挫や脱臼、骨折を起こしている可能性もあるので、医療機関を受診しましょう。また,転倒によって頭を打った後に意識障害、頭痛や吐き気、めまい、手足のしびれがある場合は脳への影響が考えられるため、直ちに医療機関を受診しましょう。

2) ヒートショック予防

ヒートショックとは、家の中の温度差によって血圧が大きく変動することで失神や心筋梗塞、脳梗塞を引き起こす現象です。冬場の浴槽に多く、入浴中のヒートショックックで意識消失を起こして浴槽で溺死するというパターンも多く報告されています。

ヒートショックがおこる理由は血管の拡張・収縮にあります。

寒い(冷たい) 血管が収縮して血圧が上昇
暑い(熱い) 血管が拡張して血圧が低下

自宅内で暖房がついている場所からそうでない場所へ移動すると寒さで血管が縮み血圧が急上昇します。そして再び温かい場所へ戻ると上昇した血圧が急激に下降します。このような寒暖差による血圧の乱高下が繰り返されることで、失神だけでなく、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすため、注意が必要です。

ヒートショックがおこりやすい時期
11月~2月の冬場
ヒートショックがおこりやすい場所
浴室やトイレ
ヒートショックを起こしやすい要因
  • 65歳以上
  • 糖尿病や高血圧の持病がある
  • 脳卒中や心筋梗塞の病歴がある
  • 一番風呂に入る42度以上の熱いお湯に長くつかる習慣がある
  • 飲酒直後の入浴をする
  • 脱衣所やトイレに暖房器具が無く冬は寒い

ヒートショックを予防するためのポイント

  • 入浴前後に水分を補給しましょう。汗をかくと体内の水分が減って、血流が悪くなります。
  • 浴室や脱衣所は小型の暖房器具などを使用して温かくしましょう。浴槽のふたを開けておいたり、シャワーで温めることも寒暖差の緩和になります。また、入浴するお湯の温度は41℃以下が理想です。
  • 飲酒後の入浴は控えましょう。飲酒をすると血圧が下がります。また入浴によってさらに血圧が下がるため危険なので注意が必要です。
  • 湯舟からは急に立ち上がらずゆっくり出るようにしましょう。ゆっくりと出ることで血圧の急激な低下を予防します。
  • トイレではいきみすぎないように排便管理をしましょう。排便の際にいきみすぎると心臓への負担が大きくなります。加えて寒暖差が血圧の乱高下を加速させるため、トイレにも暖房器具を設置しておくと安心です。

3) 健康状態の管理について

脳卒中や心臓病は生活習慣の乱れが大きな原因の一つです。生活習慣の見直しや、体調管理が重要となります。血圧や体重管理など、自宅で毎日体調管理を行いましょう。

① 血圧測定について

血圧が高くなるほど心筋梗塞や脳卒中を起こす危険性が高まります。血圧が高めの方や、血圧を下げる薬を飲んでいる方は、毎日決まった時間に同じ姿勢で測定し、変化を確認しましょう。血圧手帳や血圧管理アプリに入力することで変化が分かりやすくなりますし、受診の際に医師に見せて、普段の血圧値を理解してもらいましょう。

② 体重管理・運動について

過度な肥満やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は動脈硬化を進行させる要因であり、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを高めます。
日本肥満学会の定める適正体重はBMI18.5~25未満とされています。
一方でメタボリックシンドロームは、ウエストサイズ男性85㎝以上、女性90㎝以上、中性脂肪値150mg/dl以上・HDLコレステロール値40mg/dl未満、血圧値(収縮期血圧130mmHg以上 拡張期血圧85mmHg以上、空腹時血糖値110㎎/dlで診断されます。
コレステロール値や血糖値は自宅で簡単に測定することができないので、まずは、自分のBMIがどの程度かを把握して、体重の変化を記録しておくことが良いでしょう。適正体重の維持を目標に規則正しい生活や、継続的に運動する習慣を作りましょう。例えば、いつも利用するスーパーへの車移動を徒歩や自転車に変えてみる、歩行速度を上げてみる、意識的に階段を使用するなど、無理のない範囲で運動する習慣を作りましょう。

③ 自己検脈について

自己検脈とは、自分で自分の脈のリズムを確認することです。
この自己検脈とは、不整脈の早期発見だけでなく脳梗塞を予防するためにとても大切です。通常脈拍は1分間に約50~100回程度の規則的なリズムを保っていますが、脈のリズムが一定ではない場合、心房細動などの不整脈が出ている可能性があります。このような不整脈を放置すると脳梗塞や心不全の原因になることがあるます。脈拍をセルフチェックして、脈のリズムを確認することが大切です。

自己検脈の方法

  1. 手のひらを上にむけて、親指の付け根の下、手首のしわがある部分から下を、逆の手の人差し指、中指、薬指の3本の指で触れます。
  2. ドッドッドという脈のリズムを感じるまで抑えます。
  3. 脈を触れたら15秒間に何回脈を打っているかを数えます。
  4. 測った数を4倍すると、1分間の脈拍数になります。
  5. リズムが乱れていないか、脈拍数がどれくらいかを確認しましょう。

もし、脈の乱れに気づいたら、掛かりつけ医に相談してみましょう。

4) 内服間違えや服用忘れを防ぐ工夫

日々内服薬を服用している方は、うっかり飲み忘れた、重複して内服したかもしれない、薬が余ってしまった、ということが少なからずあるかと思います。数種類の内服薬を飲み分けている場合は特に管理が大変で、複数の内服薬を間違いなく服用するのは簡単なことではありません。ここではそのようなミスを最小現にする工夫を紹介します。

① お薬カレンダーを使用する

お薬カレンダーは薬を正しく飲めるよう考え出された便利グッズです。日付や曜日などの見当識がある人は、高い割合でのみ忘れや重複が減らせます。お薬カレンダーはたくさんの種類があり、壁掛けタイプのものや、薬ケースにカレンダーがついているものなど、様々な種類が販売されているので、使いやすいものを選んでください。薬局や100円ショップ、通信販売でも購入することができます。

② お薬を一方化してもらう

お薬の種類が増えるほど管理は大変になります。朝、昼、夕、眠前と服用回数が多くなるほど、飲み前違えが増えていきます。そのような場合は、調剤薬局に相談し朝・昼・夕・眠前と、一方化してもらいましょう。一方化の薬袋に飲む日時が印字されていることで、飲み間違えを防ぐことができ、管理が楽になります。

③ スマートフォンアプリを利用する

現在は、スマートフォンのアプリが普及し、お薬手帳機能のあるアプリやのみ忘れ防止機能の付いたアプリが登場しています。スマートフォンをお使いであれば、使いやすいものをダウンロードして試してみるのも手です。どれを使用していいかわからない方は、掛かりつけの薬局で紹介してくれるケースも増えているので、一度相談してみてもいいかもしれません。

④ 目につくところ、手に届くところに薬を置いておく

目につきやすい場所に薬を置いておくことで、飲み忘れを予防できます。
机にしまい込んでおくより、手の届く目につきやすい場所を決めておいておくとよいかもしれません。

5) 脱水予防について

脳梗塞の予防には、水分補給が大切です。脱水になると血液の流れが悪くなり血液の粘土が増す、つまり血液がドロドロの状態となり、血管が詰まりやすくなります。

必要な水分量は1日に1.5L~2.0Lと言われていますが、普段の食事にも水分は含まれているので、毎日この量の水分を飲まなければいけないわけではありません。

例えば、入浴の前後や、起床時、就寝前、外出前後など、水分が失われる場面でこまめに少しずつ水分補給を行うことが理想的です。
ただし、スポーツ飲料は糖分が加えられているため、スポーツなどの汗を流す場面以外で過度に飲んでしまうと血糖値の上昇や肥満につながることがあるため注意が必要です。

また、アルコールは水分量にカウントしません。アルコールは利尿作用があり、その分解に水分が使われるため飲酒後は脱水状態になりやすく、過度な飲酒は控えて水分を積極的に摂取しましょう。

心不全を患っている方は、心臓の負担を減らすために水分管理が行われる場合が多く、1日の飲水量を制限されている方もいるかと思います。体内の水分が過剰になることで出てくる、浮腫み、息苦しさ、体重の増加など様々な症状をセルフモニタリングしながら、水分量を管理しましょう。

6) 禁煙のために

禁煙を始めようと思っても「1本だけ」と中々始められないことがあるかと思います。禁煙を成功させるためには、禁煙を開始する日を設定する、吸いたい気持ちの対処を知っておくなど、本人の心得や自分なりの対処方法が必要です。

禁煙に効果がある方法として、ガムや飴を食べる、喫煙所を避ける、軽い運動をする、禁煙外来を利用する、ニコチンガムやパッチを利用するという方法が効果的だったといわれています。

禁煙成功には「タバコを吸いたい」という欲求を抑えることが大切になるので、喫煙していた場面で代わりの行動をするということも有効です。例えば、朝起きてすぐにタバコを吸う習慣があった場合、すぐに洗面をする、また、食後の喫煙を避けるためにすぐに歯磨きをする、といったように吸いたい気分がまぎれるような方法を見つけて実践してみるのも一つです。

禁煙治療は保険が適用できます。徳島県内にも禁煙外来が設置された病院がたくさんあるので、お近くの病院で相談してみてください。

7) もしもに備えて

状態が悪くなってきた、突然症状が悪化したなど、万が一の時に備えて、こんな時はどこに連絡するか連絡先をわかるように明記しておきましょう。

突然の状況下では、本人も家族も混乱してどこに連絡をすればいいのか分からずパニックを起こしてしまいます。例えばこんな時は、訪問看護師に連絡をする、掛かりつけの病院に連絡をする、救急車を呼ぶといったように決めて、電話番号を電話機の横や、電話をかける時に見えやすいところに書いておくことで、冷静に対応できます。

また、「人生会議」として今後の療養のことを積極的に家族や主治医など、周囲の方と話しておきましょう。病状が悪化したときにどこまで治療をするのか、最後をどこで迎えたいか、先々のことについて日ごろから話すことで、納得した治療・療養ができるようにしておきましょう。

  • 執筆者徳島大学病院 看護部 岩瀬 司
    慢性疾患看護専門看護師/脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
  • 作成日2022年10月20日