心臓病の検査・治療について

1) 心臓病の診断で、まず行われる検査

心臓病かどうかを診断するためには、まず胸痛や息切れ、むくみ、動悸といった症状があるか問診を行い、さらに聴診、胸部レントゲン検査、心電図検査、心エコー検査、血液検査などのさまざまな検査を行います。

2) 心臓カテーテル検査とは

冠動脈は普通のレントゲンでは写らないため、造影剤が必要です。これを冠動脈に直接注入するための細いチューブをカテーテルといいます。このカテーテルを手首や肘、足の付け根といった動脈から冠動脈まで進めて、造影剤を流して動画撮影します。造影剤の流れる映像を見て、冠動脈内腔のどこがどの程度狭くなっているかを診断します。これが心臓カテーテル検査の中でも一般的な、冠動脈造影検査になります。この他にも、

  • 左心室内腔を造影して心筋壊死の有無やその範囲を知る左室造影検査
  • 先端に小さな電極が付いたカテーテルを心臓内壁に接触させ不整脈を詳しく調べる心臓電気生理学的検査
  • 心不全の詳しい病状を調べるために心臓内の血圧や心拍出量を測定する右心カテーテル検査
  • 心不全の原因を調べるために心臓の筋肉の一部を採取し病理学的な検査(顕微鏡、免疫染色など)を行う心筋生検

などがあります。血管内は痛みを感じませんので、検査中に痛みを感じるのは基本的に最初の局所麻酔の注射の時だけです。検査全体に要する時間は、検査の内容にもよりますが冠動脈造影であれば30分から1時間程度です。検査の後は圧迫して止血します。動脈であれば長時間(6~8時間)の圧迫止血が必要なので、専用の器具を用いることがあります。

心臓カテーテル検査については徳島大学病院 循環器内科のページにも詳しく書いてありますので、ご覧ください。
リンク http://square.umin.ac.jp/TOKUSHIM/Patients-KensaChiryo.htm

3) 狭心症の治療

薬物治療、カテーテル治療、バイパス手術が挙げられます。

薬物治療は血液をサラサラにして固まりにくくする抗血小板薬、血管を拡げる硝酸薬やカルシウム拮抗薬、心臓の緊張を緩めて負担を減らす交感神経β遮断薬が代表的なものです。

カテーテル治療はコロナリー・インターベンション(PCI)とも呼ばれています。冠動脈造影と同じように、カテーテルという細い管を直接冠動脈の入り口まで挿入し、このカテーテルの中を通して細い針金を狭窄部の先まで送り込みます。この針金をガイドにしてバルーンを狭窄部まで持っていき、バルーンを膨らませて狭窄を押し広げ拡張させます。全体の所要時間は数十分から数時間です。また狭窄部にステント(コイル状の金属)を留置することもあります。ステントを入れて広げられた狭窄部は内側から支えられ、再び狭窄することを防ぎます。近年は再狭窄をできるだけ防ぐために、薬剤を塗布したステントが主に使用されています。

バイパス手術は、薬物治療が効きづらく、 カテーテルによる治療も困難または不可能な場合に行います。冠動脈の狭い部分には手をつけず、身体の他の部分の血管を使って狭窄部分の前と後ろをつなぐ別の通路(バイパス)を作成して、狭窄部を通らずに心筋に血液が流れる道をつくります。バイパスに用いる血管(グラフト)には、足の静脈(大伏在静脈)、胸の中で心臓の近くにある内胸動脈、手首の橈骨動脈などを使います。

4) 心筋梗塞の治療

狭心症の治療に準じた対応手段にはなりますが、心筋梗塞は命に関わる重篤な疾患であり、一刻も早く詰まった冠動脈を再開通させる必要があります。発症から再開通までの時間が短いほど良いと言われており、治療の第一選択肢は緊急カテーテル治療ですが、カテーテルでの治療が困難な患者さんにはバイパス術が適応になるため、心臓血管外科とも連携して適切な治療を行います。

5) 不整脈の治療

不整脈の治療には、一般に薬物治療と心臓ペースメーカ、ICD、カテーテルアブレーションなどの非薬物治療があります。 「心室細動」などの危険な不整脈では、心臓に電気ショックをあたえ(除細動)、心臓のリズムを整える必要があります。

心臓ペースメーカの植込みの適用には、洞結節(自然のペースメーカ)の異常によって電気の流れが起こらない「洞不全症候群」や、刺激伝導系の途中が切れて、心室に興奮が伝わらない「房室ブロック」などといった、脈が遅くなる徐脈性不整脈が挙げられます。ペースメーカ本体(電池と電気回路)と、リード(導線)で構成されていて、リード先端部分にある電極部分が心臓の筋肉に接して、電気刺激を伝えます。ペースメーカ本体とリードは、手術により体内に完全に植込まれます。

ICD(植込み型除細動器)は心拍が正常よりも速くなる頻脈性不整脈のうち、「心室頻拍」「心室細動」といった致死的な重症不整脈に対する治療です。危険な頻脈をICDが検出し治療が必要と判断された場合は、電気ショック治療などの処置が自動で行われます。また脈が遅くなった場合には通常のペースメーカとしても働きます。

カテーテルアブレーションは、専用カテーテルの先端から高周波電流を流し、不整脈を起こす原因となっている異常な電気興奮の発生箇所を焼き切る治療法です。飲み薬の治療だけでは症状やQOL(生活の質)が改善されないときには、カテーテル治療が有効な場合があります。また近年は、不整脈の種類によっては、その有効性、安全性、経済性の面から、内服治療よりも優先して選択される場合もあります。

6) 心不全の治療

心不全は1つの病気ではなく、心臓の働きが低下した結果、起きた状態ですから、治療の原則は、心臓の働きを低下させたもともとの原因をはっきりさせ、その原因となった病気を治療することにあります。大きくは薬物治療と、薬物以外の治療に分かれます。

薬物治療は、心不全の原因がなんであれ、その状態を向上させていく治療法として飛躍的に進歩してきました。体内の余分な水分を取り除いて心臓の負荷を減らす「利尿薬」、心臓の働きを手助けする「強心薬」などがあります。特に心臓の働きがかなり低下している場合は、心臓にかかる負担を軽くするアンジオテンシン変換酵素阻害薬などの「血管拡張薬」、心臓に障害を与えやすい交換神経の作用を抑制して心臓の寿命を延ばす「ベータ遮断薬」などに代表される複数の治療薬を組み合わせて、長期にわたって病気をコントロールしていきます。

薬物以外の治療は原因によって多岐にわたります。心臓弁膜症なら弁を人工弁と取り替える人工弁置換術などが、狭心症や心筋梗塞が原因であれば、カテーテル治療やバイパス手術などが必要になります。また薬物治療が難しい重症の患者さんには、心臓の動きをペースメーカで統一させる両心室ペーシング(CRT)や致命的な不整脈を止める埋め込み型除細動器(ICD)などがあります。内科的・外科的治療を尽くしてもなお強い心不全症状が残る時には心臓移植を検討します。条件を満たした場合は心臓移植待機となります。心臓移植を待つ間などには補助人工心臓というポンプ装置を体内に移植することもあります。

7) よくある質問

心臓の検査や治療を受けるには、まず何科に行けばいいですか?

まずは心臓の専門家である循環器内科のある医療機関にご相談ください。 循環器専門病院であれば、心臓に関する検査を網羅でき、スムーズに診断・治療につながります。

冠動脈バイパス手術はどのようなときに行われるのでしょうか?

冠動脈バイパス手術は、心臓を栄養する血管(冠動脈)が閉塞した際に、薬物治療が効きづらく、 カテーテルによる治療も困難または不可能な場合に行います。具体的には左側の心臓を栄養する血管(左主冠動脈)が詰まった場合、左右3本ある冠動脈が閉塞した場合(3枝病変)、慢性閉塞病変といった重症冠動脈病変、またカテーテル治療で再狭窄を繰り返す場合などにもバイパス手術が考慮されます。
大動脈瘤や弁膜症を伴った方ではバイパス手術も同時に行い、一度で治療が可能です。

循環器内科と心臓血管外科はどう違うのでしょうか?

循環器内科も心臓血管外科も同じ心臓病を扱う診療科ですが、心臓血管外科は心臓を直接さわるような大きな手術を主に行っていて、循環器内科ではカテーテル治療やペースメーカなど侵襲の少ない手術を行います。そのほか、循環器内科はエコーなど心臓に関する検査、各心臓病に対する薬物治療や原因となる生活習慣病の管理なども担当しています。

心臓手術後の傷はきれいに治るのでしょうか?

胸を左右に広げて行う心臓手術では、胸の真ん中にある胸骨という骨を縦に切開します。手術後の胸骨は針金や強く太い糸を使って骨を締めていて、 骨が完全に治るまで 2~3か月かかりますので、術後3か月程度はバストバンド(胸帯)を着用してもらいます。その間は重いものを持つ、体を大きくひねるなど、胸骨に負担のかかる運動は避けましょう。表面の皮膚の傷がほぼ正常状態まで回復するには6カ月~1年くらいかかると言われています。

ペースメーカを植え込むと電波を発する機械は使えないのでしょうか?

ペースメーカは、超小型の精巧なコンピュータのようなものですので、外部からの電気や磁力に弱いという欠点があります。一般的な日常生活で使用する電化製品は大丈夫なものが多いですが、家庭や職場、あるいは医療施設などの公共の施設で注意した方が良いものや、絶対に避けなければならないものがあります。
なお医療機器ではMRI検査も影響を受けますが、ペースメーカの種類により一定の条件の下、撮像が可能です。詳しくは主治医にご相談ください。

植込み型除細動器やペースメーカーは定期的な交換が必要なのでしょうか?

ペースメーカ本体装置は内蔵された電池によって動いています。どんな種類の電池でも起こるように、ペースメーカの電池も時間の経過とともに減っていきます。通常のペースメーカでは7~10年で交換時期となりますが、プログラムの設定と、どのくらい治療が行われたかによって大きな個人差があります。電池の寿命は定期健診の際にチェックされますが、ある一定の数値を下回ると新しいペースメーカ本体へ交換する手術を行います。

左心耳閉鎖術とはどのような治療なのでしょうか?

頻脈性不整脈の一種である心房細動がおこると、心臓が血液を正常に送り出せないため、心臓の「左心耳(さしんじ)」と呼ばれる部分に血液の塊(血栓)が形成されます。その血栓が何らかの拍子に剥がれて脳梗塞が起こることがあります。一般的に心房細動に対しては、抗凝固薬などの薬物療法やカテーテルアブレーション治療が選択されます。しかし薬物療法は出血リスクが高い場合は使用が難しく、カテーテルアブレーション治療は長い間不整脈が続いている方への効果は限定的、といった問題があります。このような長期間の抗凝固薬の服用ができない心房細動の方に対して、血栓の形成に起因する左心耳を閉鎖し、脳梗塞を予防する治療が左心耳閉鎖術です。つまり、左心耳を閉じることができれば抗凝固薬を飲まなくても、脳梗塞のリスクを抑えることができるということです。左心耳閉鎖術には、カテーテルによって左心耳に詰め物のような医療器具を留置して閉鎖する「カテーテル治療」と、脇の下の3~4カ所の小さな刺し傷から胸腔鏡を挿入して、カメラで観察しながら左心耳を切り取って閉鎖する「外科手術」の2つの方法があります。
当院の心臓血管外科でも治療を行っています。

詳しくは、こちらからご覧ください。
完全内視鏡下心房細動手術 - 徳島大学大学院 医歯薬学研究部 心臓血管外科分野 (tokudai-cvs.jp)

  • 執筆者循環器内科 医師 門田 宗之
  • 作成日2022年10月25日