薬剤について

1) 急性期治療で使用する血栓溶解剤

アルテプラーゼというお薬が使用されることがあります。この薬は、点滴で投与され、脳の血管に詰まってしまった血の塊(血栓)を溶かす作用があります(下図参照)。この薬を使うためには、脳梗塞発症時間、頭部CTやMRIの結果、採血の結果等、様々な使用条件を検討し、投与が決定されます。したがって、全ての患者さんに必ず使うことができるわけではありません。

<血栓溶解のイメージ> ※ 1)を改変

<引用元>
1) 豊田一則:1.血栓溶解療法,日本内科学会雑誌,98:1263-1269,2009

2) 脳卒中後によく使用する内服薬

脳梗塞、脳出血を再び起こさないように予防薬として血液をサラサラにする薬や血圧を下げる薬が使われます。脳梗塞や脳出血発症後に使われる薬は病気の種類によって対応が異なります。

血液をサラサラにする薬について

不整脈が原因で起きた脳梗塞の場合

不整脈が原因で脳梗塞が起きている場合、ワルファリンまたは直接経口抗凝固薬(DOACとも呼ばれます)がよく使用されます。出血のリスク、年齢、体重等を検討して用量、薬の種類が決定されます。

原因が不整脈ではない脳梗塞の場合

アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール等が使われます。2種類の薬を組み合わせることもありますが、患者さん個々の状態に応じて、使われる薬の種類、量が変わってきます。

血圧を下げる薬について

脳梗塞でも脳出血でも血圧を一定以下にすることが再発予防のために重要であると言われていますので、血圧を下げる薬が処方されることがあります。自宅で毎日の血圧を測って、血圧手帳などに記録しておきましょう。

3) 心臓病でよく使用される内服薬

心臓病の代表的疾患として心筋梗塞、心不全を例に挙げて、よく使われる薬を解説します。

心筋梗塞でよく使われる薬

以下に代表的な薬を記載します。どのような薬が処方されるか、そしてどれぐらいの量が適切であるのか患者さん個々の状態に応じて検討されます。わからないことや不安なことがあれば処方される先生に相談しましょう。

血液をサラサラにする薬

血栓ができるのを防止し、再び心臓の血管が詰まらないようにします。手術等では、この種の薬を休薬しないといけない場合があります。医療機関受診の際には、お薬手帳を見せたり、血液サラサラの薬を飲んでいることを医師に伝えたりしましょう。

血圧を下げる薬

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β(ベータ)遮断薬などが使われます。患者さん個々の状態に応じて薬剤の種類、量が設定されます。脳卒中のコーナーでも触れましたが、日々の血圧を測定し、かかりつけの先生に適宜見せるようにしましょう。

コレステロールを下げる薬

動脈硬化の進行を抑え、徐々に血管が狭くなり詰まるのを防ぐ作用があります。

血管を拡げる薬

心臓の血管を拡げて、血管が詰まらないようにする薬が使われることがあります。

心不全でよく使われる薬

心不全の患者さんには血圧を下げる薬、尿量を増やす、脈拍を抑える薬などが使用されます。心不全の状態等を検討し、薬の種類が選定されます。

血圧を下げる薬

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、サクビトリルバルサルタンといった薬が使われます。心不全をできる限り進行させないようにするために使われので、血圧が高くない場合でも処方されることがあります。毎日血圧を測って日々の血圧を把握しておきましょう。

尿量を増やす薬(利尿剤)

ループ利尿薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬、トルバプタンといった薬が使われます。体に貯まった余分な水分を尿として排泄させ、心臓にかかる負担を軽くします。薬の効果で尿として排泄した水分量と口から摂った水分量のバランスを取る必要があります。バランスを崩さないように1日に飲んでもよい水分量の目安を医師に相談しておくことが重要になります。

脈拍を抑える薬

脈拍を遅くすることで心臓を休めて楽にさせ、心不全の悪化を抑制し、心臓の寿命を延ばす効果があります。基本的に急激に投与はせず、少しの量から時間をかけて段階的に、できる限り増量していきます。

4) よくある質問

薬を飲み忘れた時はどうしたらいいですか?

飲み忘れに気付いた時点から、次に飲むタイミングまでどれぐらいの時間が空いているかにより対応が変わることがあります。また、内服薬の種類によっては飲み忘れに気付いた時点で飲むことができるものもあります。薬の飲み忘れた場合を想定し、あらかじめ薬剤師に相談しておくとよいでしょう。

サプリメントや青汁は飲んでも大丈夫ですか?

サプリメントの種類や成分によって薬の効果に影響を与える可能性があります。特にワルファリンを内服されている方は、青汁を飲むと薬の効果が弱くなることが知られています。飲んでいるサプリメントや、飲みたいサプリメントがあるのであれば事前に薬剤師に相談しましょう。

血圧が下がったので内服をやめてもいいですか?

血圧を下げる薬は、脳梗塞や脳出血の再発予防効果があると言われています。その他、様々な合併症の予防を目的として薬が処方されていることがあります。血圧を下げる薬をやめると予防効果がなくなり、脳梗塞や脳出血を再度起こしてしまうリスクが高くなったりします。一方で、血圧を下げる薬を飲むことで「立ちくらみがする」、「体がふらふらする」等の症状が出る場合、薬の種類や飲んでいる薬の量を調整することが必要な場合もあります。自己判断で血圧の薬を量や用法を変更することは避け、必ず医師や薬剤師等医療者に相談し、アドバイスしてもらいましょう。

また、日々血圧を測って記録しておき、受診時に医師に見せることが安全に薬を使うためには重要です。

血液をサラサラにする薬はいつまで飲み続けるのですか?

血液をサラサラの薬を飲むことで脳梗塞の再発予防効果が得られることが臨床研究で実証されています。どのぐらいの期間、何種類の薬を飲むべきか、というのは主治医の先生が患者さん個々の出血リスク、副作用等、様々なことを検討して決定されます。

血液をサラサラの薬を飲むことで得られるメリットは大きいことから長期間内服することが重要ですが、飲み始めてから、血尿や血便が出るなど出血がある場合には速やかに処方医療機関に相談して、対応について指示を仰ぐ必要があります。

食べてはいけないものや、注意する食品はありますか?

ワルファリン錠を飲んでいる方は、薬の効果が少なくなったり、効果がなくなったりするので納豆、青汁、クロレラは避けて頂く必要があります。その他、シロスタゾール錠を飲んでいる方では、グレープフルーツジュースを飲むと薬の効果が強くなったりします。その他、健康食品の中にも薬効に影響を与えるものがありますので注意が必要です。

色々な病院から薬を処方されていて、たくさんあるけど飲み合わせが心配です。

色々な病院から薬が処方されている場合、薬の情報を一つの薬局に管理してもらうことが推奨されています。いつも薬をもらっている薬局に実際飲んでいる薬やお薬手帳を持っていき、飲み合わせについて相談してみましょう。

  • 執筆者徳島大学病院 薬剤部
    副薬剤部長 櫻田 巧
    試験室長  小川 敦
  • 作成日2022年10月25日